SESSION 2
臨場感のある実況解説
- 日時、2018年ろくがつじゅうななにち。にちようび。13:00から15:30
- 会場、カート神奈川芸術劇場、大スタジオ
- 出演 | 鈴木光裕(フリーアナウンサー)、松沼雅之(野球解説者)
- モデレーター | 木村覚(日本女子大学准教授、ダンス研究者・批評家、
BONUSディレクター)
もともと映像がないラジオという媒体において、選手の動きやゲームの展開を視聴者とリアルタイムで共有するスポーツ実況アナウンサーと解説者。ゲームの盛り上がりをつくっていく両者の役割から、臨場感をもってライヴパフォーマンスをとらえ、伝えるポイントを学ぶため、昨年に引き続きフリーアナウンサーの鈴木光裕さんと新たに野球解説者の松沼雅之さんを招いてセッション 2を行った。二人には、野球を例にしたテレビとラジオの実況解説の違いと、実況と解説の関わり方についてお話頂いた。
この日リアルタイムで行われた中日ドラゴンズと西武ライオンズの試合の放送をもとに、①音のみでラジオの実況解説、②音のみでゲームの予想をしながらの実況解説、③映像ありでテレビとしての実況解説、④映像なしでテレビの実況解説、⑤映像ありでラジオの実況解説という流れで鈴木さんと松沼さんにさまざまな設定での実況と解説のデモンストレーションを行って頂いた。
実況の立場から
これまで40年以上スポーツ実況に携わってきた鈴木さん。スポーツをわかりやすく伝えるためには、シーンが目に浮かぶような実況描写が大切。スポーツの実況描写は、走る、捕る、かつては乱闘など、いろんな要素が詰まっている野球の実況からスタートすることが多いという。ラジオは特に画面がないので、球場の様子やベンチの監督の表情など、情景が目に浮かぶような解説を心掛けている。
何よりもまずは見たものを口に出す訓練から。頭の中で考えてしまうと言葉が出てこないため、それができてはじめて実況ができるようになる。訓練でよくやるのが、電車の中から見える景色、例えば看板の色や文字などを次々と口に出していくこと。そうすると徐々に出るようになっていくという。
鈴木さんが大切にするのは同時性。「投げました」と言った時にミットにボールが落ちる音がすると、すでに投球は終わってしまっている。「投げた」時に「投げました」と言うことが一緒に試合を楽しんでもらうコツ。それでも平均して一試合で約 300回「投げました」と言うため、他の言い方を探すようになる。野球は「投げました、打ちました、ショートゴロ」といった三拍子のリズムが基本だが、リズムをつけていくことで聴いている人もそのリズム感で耳に入りやすくなる。
アナウンサーは見るプロ、解説者はやるプロ
ラジオのアナウンサーは、テレビで言うところのカメラ、ディレクター、スイッチャーの役割を担う。自分でゲームを組み立てることができる面白さがあり、さらに解説者が入ることでよりそのスポーツが伝わりやすくなる。解説者がどういう野球観を持っているかを事前に把握し、頭の中でそれを計算しながらやり取りする。専門知識は、アナウンサーが言うのと解説者が言うのとで信憑性がまったく変わる。自分で言ってしまわず、解説者に説明してもらうのがアナウンサーの役割と鈴木さんは話す。
解説の立場から
目の前の状況を描写するアナウンサーと異なり、選手の立場から選手の状態や心境、ゲームの流れを解説する解説者。「アナウンサーは見るプロ、解説者はやるプロ」と松沼さん。そのためどこのポジション出身かによって解説のやり方も異なる。用語を知っている人がどのくらいいるかわからないため、わかりやすさを重視して解説するのが自分のスタイルと話す。話し過ぎてもいけないし、話さないのもいけない。さまざまな意見が飛び交う中で自分自身を貫く人ほどプロ、というのが松沼さんの考え方。さまざまなアナウンサーとやりとりする中で、アナウンサーもバットの重さやボールが当たった痛さを経験してから実況すべきと感じると話す。
ラジオだと矢継ぎ早に続くアナウンサーの実況はテレビになると減り、解説者の方がよりコメントを多く挟むようになる。そしてラジオの場合は、解説者も見たものをそのまま口に出す訓練をしないと追いつけないという。また、ラジオの場合は、結果論だけを解説するのでなく、流れや次の展開を予想しながら解説するのも喜ばれるという。テレビ中継の音を消してラジオの音を流しながら見るラジオファンも多くいると松沼さんが話すと、「ラジオの方がその場にいる感覚がより味わえるからではないか」と鈴木さん。
モデレーターの木村さんからは、「実況解説は話芸のような側面があると感じた」と感想を共有した。ただ野球に関しての情報を知るだけではなく、おしゃべりを聴くというトークバラエティー的な側面があり、エンターテイメントとして面白さを感じたと話す。
「見たものをすぐ口にだす練習は、経験が積み重なりインデックスのようなものがあるのか」という木村さんの質問に対し、鈴木さんからは、使っていない言葉は出ないので、この言葉を使いたいと考えておいて、実際使えなかったらメモ程度で残す。後で使えたら今後その言葉も使っていくようにすると、だんだん蓄積され、良いリズムが生まれるという。
逐一丁寧に話すことが解説や実況ではなく、どのように楽しい時間にしていくかが重要であることが伝わった二人の掛け合い。芸術においても、純粋に舞台上だけで受け止めるだけでなく、いろいろな人が思いを投げ掛ける空間やチャンネルもあっていいはずではないか、という木村さんの投げかけでセッションは幕を閉じた。