ワークショップ1
イギリスの事例から
- 日時、2017年しちがつじゅうくにち。すいようび。にじゅうにち。もくようび。10:00から17:30
- 会場、カート 神奈川芸術劇場
- 講師、ルイーズフライヤー、ゾーイパーティントン
イギリスの実践者を招いて二日間に渡り開催したワークショップ1。ワークショップは参加者とのディスカッションをベースに進められた。まず最初に音声ガイドをつくる前提として、「なぜ視覚障害者は舞台やダンスを見に行きたいと思うのか」という問いかけから始まった。
視覚の有無に関係なく、人間的な好奇心や知への興味から体験してみたいのではないか?中途失明だとしたら失ったものを取り戻したいのでは?さまざまな意見が出るなかで、「目が見えない人は視覚以外の五感が鋭くなるから体に興味を持つのでは」という意見にゾーイ
パーティントンさんは「それは神話ではないかと当事者であるわたし自身思っています。むしろ例えばわたしは、視覚以外の方法でダンスに関わりたいという気持ちがあるからです」と答える。科学的に正しい部分もあるかもしれないが、すべての視覚障害者をそう捉えるのは危険であると指摘する。次に、音声ガイドとは「すべての人に平等に情報提供すること」と話すルイーズ
フライヤーさんが、視覚障害のさまざまな症状やイギリスでの普及の現状について紹介。個々人のニーズに応えるべくさまざまな形で情報を受け取ることができるようにすることの重要性を語った。これまでの経験から導き出された音声ガイドの基本的な原則を共有する。- 同時性を保つ(物事が起こっているタイミングで、情報を提供する)
- 動きに合わせて説明をする
- 台詞にはかぶせない
- ずっと続けない(過度の情報は受け手のキャパシティオーバーを招く)
そして、観客/ガイド制作者/劇場の観点から、公演に音声ガイドをつける際にやるべきことについてレクチャーが行われた。
ワークショップはレクチャーだけでなく、ポストカードの絵を相手に見せずに説明する、一列に並び前の人の動きから状況を想像し解説するなど、エクササイズも交えながら進められた。二日目はオーディオ
イントロダクション(事前情報)とダンス本編の音声ガイドを実際に書き、グループごとに上手く説明できているところや改善点を講評。音声ガイドを単に視覚障害を持った人だけのものでなく、いろんな人たちが楽しめるエンターテインメントのひとつという捉え方でオープンに利用して欲しいと語った二人。イギリスの音声ガイドの概況を知るだけでなく、言葉の選び方や制作スタッフとの協働の仕方、事前情報の重要性など、経験にもとづいた実践的な情報が多く得られる濃い二日間となった。公演に音声ガイドをつける際にやるべきこと
観客(視覚障害者)
- 情報を得る。チケット予約をする。
- 開演時間より早めに劇場へ行き、タッチツアーに参加。
- ヘッドセットを受け取り、席に着く。
- 事前情報を聴く。
- 本番を楽しむ。
音声ガイド制作者
- 二週間前くらいからリハーサルに参加し、情報を収集する。
- 得た情報をもとに公演紹介情報をつくる。
- タッチツアーの内容をリスト化する(この舞台セットは触らせたいなど)。
- 全体が映ったパフォーマンス動画を受け取る。
- 動画を見ながら文字化する。何回か見て、公演の流れを覚える。
- リハーサルでガイドを合わせてフィードバックをもらう。
- 視覚障害者に実際に見てもらい、フィードバックをもらいながら調整し、本番に臨む。
劇場
- どの公演に音声ガイドをつけるか決め、告知する。
- ガイドをつける演目が決まったらガイド制作者を複数人ブッキングする。客観性を保つためと、メインのダンサーが二人いるなら違う声でガイドするとわかりやすい。
- フィードバックのために視覚障害者を複数人ブッキングする。そのほうがガイドの質が高まる。
- 劇場スタッフとカンパニーに音声ガイドをつけることを周知する。
- 制作者にパフォーマンスの映像を提供する。
- 脚本 プログラムも提供する。
- ガイド制作者たちが見られる席を確保する。
- ガイド制作者をダンサーや演出家、その他制作スタッフとつなげる。
- 何か質問があれば対応できるようにする。
- タッチツアー
- 視覚障害者がパフォーマンスの前にステージに上がって、衣装や小道具を触ったり、パフォーマーとともに演目の鍵となる動きを体験したりしながら、その概要や設定などの基本情報を知ること。
- オーディオ(パフォーマンスの事前情報) イントロダクション
- 上映時間や注意事項、出演者情報、演目の概要、舞台美術や登場人物、作品の設定などを事前に説明する情報。最長 10分程度が目安。公演が始まる前に知っておきたい情報を簡潔に伝えることで、「見たい」という気持ちを喚起するとともに、上演中に生で伝える情報を絞る役割も持つ。
講師プロフィール
ルイーズフライヤー。1993年にナショナルシアターが音声ガイドを始めた頃から音声ガイドに携わる。BBCの音声ガイドサービスや映画、ミュージアムやギャラリーのガイドの開発まで幅広く活躍している。ヴォーカルアイズと共に、イギリス国内のダンスやオペラ含む舞台芸術のガイドを行う他、国内外で講義も行う。著書に「An Introduction Practical Guide」(2016年)。
ゾーイパーティントン。自らも視覚障害を持ちながら1994年から音声ガイドの開発に携わる。2012年にはロンドン五輪に伴う文化プログラムの一環で「Shifting Perspectives」を執筆、 2016年リオ五輪に向けたトレーニングにも携わる。2017年にはテートモダンで『Ways of Seeing』という音声ガイドに関するプロジェクトを行うなど、国内外のプロジェクトを多数手がける。